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コラム

2023.06.23
インボイス制度 元請けはどうすれば?

2023年(令和5年)10月よりインボイス制度が導入されます。

間近となった今、準備中の事業者も多いのではないでしょうか。

インボイス制度はすべての事業者に何かしらの影響を与えます。

この記事では、外注先に消費税の免税事業者である一人親方などの下請け業者が多い建設業に焦点をあて、

元請け会社がインボイス制度導入にあたってどのような影響があるか、対応すべき事項、および注意点を解説します。

建設業元請け会社におけるインボイス制度の影響

インボイス制度開始後は「適格請求書(インボイス)」がないと消費税の仕入税額控除の適用が受けられなくなります

例えば、売上が110万円(税込)、下請け業者へ55万円(税込)支払ったとします。

売上に係る消費税は10万円、外注に係る消費税は5万円であり、税務署に納付する消費税は10万円-5万円=5万円です。

もし下請け業者が免税事業者であった場合は、インボイスが入手できないため、5万円の仕入税額控除の適用が受けられず
10万円の消費税を納付する必要が出てしまいます。

インボイスを発行するには適格請求書発行事業者になる必要がありますが、そのためには消費税の課税事業者にならなくてはなりません。

一人親方など、下請けの業者に免税事業者が多い建設業では、支払った経費の中でインボイスを入手できない割合が高くなる可能性があります。

原則としてインボイス制度は、インボイスが入手できなければできないほど、消費税の負担が多くなる仕組みとなっており、元請け会社の消費税負担が増える可能性があるといえるでしょう。

建設業元請け会社のインボイス制度への対応

インボイス制度に向けて、まずは適格請求書を発行するための準備が必要です。

登録申請をおこなった上で、要件を満たす「適格請求書」を発行できるように準備をしましょう。

また、適格請求書の発行者側の対応だけでなく、受領者側の準備が必要です。

受領者側として特に建設業の元請け会社におすすめする対応は以下のとおりです。

(1)下請け業者に対してインボイスを発行できるか確認する
(2)下請け業者からの相談に乗る
(3)インボイス制度開始による影響額の試算

それぞれ解説します。

(1)下請け業者に対してインボイスを発行できるか確認する

まずはインボイス制度開始に備え、自社(元請け会社)の登録番号をお知らせするとともに、下請け業者に対して主に以下のような点を確認しましょう。

・適格請求書発行事業者となる場合には、その旨および登録番号を知らせてもらう
・今後登録予定の場合はその旨、および後日登録した場合には登録番号を知らせてもらう
・登録の予定がない場合にはその旨を知らせてもらう

入手した登録番号は、会計システム上登録されている取引先データに紐づけて管理しておくと、仕訳を計上する際に仕入税額控除の適用を受けられるかどうかを楽に判定できます。

事務負担を軽減するためにはシステム上で登録番号を管理できるように検討するとよいでしょう。

(2)下請け業者からの相談に乗る

上記(1)の確認にともない、現在免税事業者である下請け業者からインボイス制度に関する相談があるかもしれません。

免税事業者がインボイス発行のために課税事業者になる場合には、以下のいわゆる「2割特例」があり、負担が軽減されます。情報を提供し、参考にしてもらいましょう。

【いわゆる「2割特例」の概要】

令和5年税制改正にて、いわゆる「2割特例」が新設されました。

これは、免税事業者がインボイス制度開始をきっかけにして課税事業者になる場合に、消費税の税額や事務処理の負担を軽減するために設けられた制度です。

免税事業者に、課税事業者を選択してもらうハードルを下げる狙いもあるでしょう。

概要は以下のとおりです。

・課税期間における納付税額を、課税標準額に対する消費税額の2割とすることができる
・届け出は必要なく、確定申告書に付記するだけで適用できる
・2023年10月1日から2026年9月30日までの日の属する各課税期間のみの期間限定(個人事業主の場合は2023年10~12月の申告から、2026年分の申告までが対象)
・免税事業者がインボイス制度のために課税事業者になる方が対象。以前から課税事業者の方は対象外。

「2割特例」だけでなく、インボイス制度全般の情報提供や、税理士などの専門家を紹介するなどといった対応も望まれます。

(3)インボイス制度開始による影響額の試算

自社(元請け会社)が消費税の簡易課税制度を選択している場合には、消費税の計算にインボイスの有無は影響しません。

一方本則課税制度で計算する場合には、仕入税額控除の適用を受けられる取引がどの程度あるか、そして今後消費税の負担がどの程度増えるかを試算しておきましょう。

まずは(1)で主な取引先に確認をした上で、その取引先とどの程度の取引量があるかを予想して試算します。

もし前述のケース、売上が110万円(税込)、元請け会社へ55万円(税込)支払った場合は、元請け会社がもし免税事業者のままである場合は5万円の消費税負担増になります。

ただしこの際、以下の経過措置がある点を念頭においておきましょう。

【経過措置】
2023年10月からインボイス制度が開始されるものの、開始してすぐにインボイスのない取引が「全額」仕入れ税額控除の適用が受けられなくなる訳ではありません。

インボイスの影響を軽減するため、以下の経過措置があります。

・2023年10月~3年間 インボイスのない課税仕入につき80%控除可能
・2026年10月~3年間 インボイスのない課税仕入につき50%控除可能
2029年10月以降は、全額控除不可となります。

このため、インボイス制度が開始しても6年間は、インボイスがなくても決められた率の仕入税額控除の適用を受けられます。

例えば最初3年間は80%が控除できるため、先ほどの例だと5万円×80%=4万円は仕入税額控除の適用が受けられることから、消費税の負担増は1万円のみで済みます。

下請け業者への対応にあたっての注意点

前述したとおり、インボイス制度により元請け業者の消費税の負担が増える可能性があります。

できれば取引先の下請け業者からはインボイスを入手したいところです。

しかし、取引上優越した地位にある事業者(元請け業者)が取引の相手方(下請け業者)に対して一方的に不利益を与える場合には、優越的地位の乱用として独占禁止法・下請法上問題となる恐れがあります。

例えば以下のようなケースが考えられます。

・経過措置があるにも関わらず、免税事業者に消費税相当額を取引価格から引き下げることを一方的に通告する
・免税事業者であることを理由に取引を停止する
・課税事業者にならなければ「取引を停止する」などの不利益を与えるとして、一方的に課税事業者になることを強制する

注意すべき事項については公正取引委員会のホームページにてまとめられていますので、参考にしてください。

また、住宅生産団体連合会から「元請け事業者(課税事業者)の取引事業者(免税事業者)に対するインボイス制度の取り組み指針の策定について」が公表されています。

ここでの指針は今まで述べてきた内容と同様ですが、概要を下記にまとめます。

・下請け業者がインボイス発行事業者(課税事業者)になるかどうかは協力の依頼のみとし、取引先の判断に任せて強制しない
・下請け業者がインボイス発行事業者(課税事業者)にならないことを理由に、優先的立場を利用して交渉・相談することなく消費税分の価格を下げたり取引を停止したりしない
・下請け業者からのインボイスに関する相談は真摯に対応し、必要に応じて専門家を紹介するなどのサポートをおこなう

このように、免税事業者に対して一方的に価格を引き下げたり、課税事業者になることを強制したりすることは独占禁止法・下請法上問題となる恐れがあります。

しかし、交渉や要請をおこなった上で下請け業者の判断に任せることは可能です。

また、独占禁止法・下請法上問題となる可能性があるのは現在の取引先に対しての話です。

新規の取引先はインボイス発行事業者から選ぶ、新規の免税事業者の取引先に対しては当初から取引価格を下げる、といったことは可能です。元請け業者の消費税増額を軽減するための対策になるでしょう。

まだ経過措置が6年あります。

取引先への対応に関しては、インボイス制度が開始してからの動向を確認するという判断も考えられます。

状況を総合的に判断して、下請け業者への対応方針を検討しましょう。

まとめ

以上、消費税の免税事業者である下請け業者が多い「建設業の元請け事業者」に焦点をあて、インボイス制度導入にあたってどのような影響があるか、対応すべき事項、および注意点を解説しました。

まずは下請け業者からインボイスを入手できるかどうかを確認し、自社の消費税負担がどの程度増額となるかを把握していきましょう。

同時に適格請求書発行事業者の登録番号を入手して保管・管理し、記帳をスムーズにスタートできるように準備することも大切です。

下請け業者への対応は、元請け会社によって方針が異なる面もあると思われます。独占禁止法・下請法上問題とならないように注意しながら、対応を検討していきましょう。

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