2024.11.21
経営者の経理兼務はコスト削減になるのか?見落としてはならない「社長の価値」
経営者が兼務する経理業務とは 少子化の進行によって、わが国の生産年齢人口(15~64歳)は減少を続けています。それを補っていた高齢者の就業者数も近年では減少に転じていることから、人材不足の問題はより…
中小企業はバックオフィス業務に人員を割けず、1人の担当者に経理を任せるというケースが多いのではないでしょうか。いわゆる「1人経理」と呼ばれるもので、不正リスクがもっとも高い状態です。
1人経理に「できてしまう」不正は主に横領で、現金を着服するだけでなく会計帳簿を改ざんしておこなうケースも少なくありません。以下のケースについて、状況の例を解説します。
1.小口現金の横領
2.不正振込
3.交通費の水増し請求
4.売上代金着服
消耗品の購入や交通費の精算などに備えて用意する少額の資金を「小口現金」といいます。
1人経理が小口現金を管理する場合は残高チェックをする人がいないため、一部を着服しても発覚しにくいかもしれません。
請求書の処理や振込も、経理業務のひとつです。
経理担当者が1人の場合、振込内容をチェックする人がいないまま出金できるため、架空の請求書や私的な領収書による出金がおこなわれても発覚しにくいというリスクがあります。
社員が一時的に立て替えた経費の精算、特に交通費精算は不正がおきやすい場面です。
在来線運賃などは領収書がないことも多く、かつ頻繁に発生するため、水増し請求があっても気づきにくいでしょう。
経理担当者だけでなく、他の社員による不正も発生しやすいところです。
売上代金を現金で回収している場合は、会社へ入金せずに着服するという不正リスクが高まります。
1人経理の担当者が回収もしているケースでは、帳簿等の改ざんもできるためなかなか発覚しないでしょう。
また、バックマージンを会社に報告せずに着服するというケースも考えられます。
これは経理だけでなく、営業など現場に出向く社員がおこなうことも多く、見つけにくい不正です。
1人経理は、帳簿への入力も証憑の管理も1人でおこなうことが多いでしょう。
そのため、帳簿や証憑を改ざんして不正内容と帳簿を一致させることもできます。
入力もチェックも1人でおこなう1人経理は、その気になればいつでも発覚しにくい不正をおこなえるのです。
では、なぜ「その気」になってしまうのでしょうか。
人が不正をおこなう仕組みを体系化した「不正のトライアングル」という理論があります。
アメリカの組織犯罪研究者であるD.R.クレッシーが提唱し、W.S.アルブレヒト博士が体系化したもので、企業のリスク管理にも活用されている考え方です。
不正のトライアングル理論では、不正がおこる環境には、「機会・動機・正当化」という3つの不正リスク要素が揃っているといわれています。3つの要素について、1つずつ詳しく説明しましょう。
「機会」とは、不正行為の実行を可能にする客観的な環境のことです。
【例】
・1人の担当者が、現金や資産を扱っている。扱う権限がある。
・現金や商品がなくなっても誰も注意を払わない。あるいはチェック体制がない。
・上長が何も確認せずに、現金や商品に関する書類の承認をおこなっている。
このような状況では、現金や商品を盗んだり不正請求をおこなったりすることが容易、かつ隠蔽しやすいといえます。チェック体制がないのですから、発覚もしにくいでしょう。
「動機」とは、不正行為を実行したいと欲する主観的な事情のことです。
【例】
・成功者でいたい。失敗やミスが発覚しないようにしたい。
・負債がある、家族の医療費や進学費、遊興費がほしいなど、個人的に資金を必要としている。
・ノルマ達成について強いプレッシャーを感じている。
不正をおこなえば「欲しいもの・状況」が手に入るという事実は、大きな動機となります。「お金がほしい」という直接的な動機以外にも、「ノルマから逃げ出したい」というプレッシャーも不正をおこなう動機のひとつです。
「正当化」とは、不正行為の実行を是認する主観的な事情を指しています。
【例】
・みんなやっている。
・一時的に借りるだけで、すぐ返す。
・不公平な待遇を受けているのだから、自分は悪くない。
・「誰かのため」だからしかたない。
正当化は、不正行為の実行にGOサインを出す心理的なスイッチです。機会や動機が揃っていても、良心や倫理観によって踏みとどまる人がほとんどでしょう。しかし、経費の不正申請が横行しているような会社では、心理的なハードルがさがります。また、待遇や対応への不満は、会社へ不利益を与えることを正当化しやすくするのです。
●不正要素を潰すことが効果的
このように、不正要素「①機会②動機③正当化」が3つとも揃っている環境は、不正リスクが高いといえるでしょう。逆をいえば、3つが揃わないように社内環境を改善させることが、効果的な対策になるということです。
たとえ、「借金がある(②動機)、待遇に不満がある(③正当化)」という人でも、不正がおこしやすい環境(①機会)がなければ実行できません。
社員のプライベートな金銭的事情に踏み込むことは難しいですが、社内の環境整備ならばおこないやすいのではないでしょうか。
それで横領や不正請求といった不正を防ぐことができるのですから、結果的にコストダウンにもつながります。
経理の不正を防ぐ対策としては、いくつか方法があります。主なものは以下のとおりです。
対策1.経営者が経理知識をつける
対策2.経理担当者の増員
対策3.小口現金の廃止
対策4.アウトソーシングの利用
対策5.経理業務の「見える化」
経理業務を適切にチェックできる人がいないという状況は、「機会」を生み出すことになります。
機会を潰すためには、経理担当者がおこなった業務を社内でダブルチェックできるようにしておくとよいでしょう。
ただし、その場合、チェックをおこなう人にもある程度の経理知識が必要です。
経理知識がある人材は高く新規採用が難しいという場合は、社内の人材に経理知識を学習させるという手もあります。
この場合、最適な人材は経営者自身です。経営者が経理知識を身につけ、帳簿のダブルチェックをすることは1人経理の不正リスクを大幅に減少させます。
経営者にとっても、経理業務を定期的にチェックすることで資金把握ができ、経営判断のしやすさにもつながるでしょう。
人件費に余裕があるのなら、経理担当者を増員して「1人経理」を脱するのも有効な手段です。出納と記帳の担当者を別におくなど、相互にチェックができるようにしておくとさらに効果的です。どちらかが不正をしても、もう一方の作業時に不正が発覚する状況ならば、不正を実行しようとは思わないでしょう。
手の届く場所に現金がある、残高と帳簿に差額が生じても原因不明のまま処理されやすい「小口現金」管理は、社内不正の温床ともいえます。
経理担当者だけでなく、どの社員にも「機会」となる可能性があるため、すべてを振込に変更するなど小口現金自体を廃止することも検討するとよいでしょう。
残す場合は、金額上限を設定する、経営者のダブルチェックをおこなうなど不正防止の対策が必要です。
増員や経理知識学習などが難しく、効果的なダブルチェックがおこなえない場合は、経理業務をアウトソーシングする方法もあります。
例えば、記帳などの日常業務は経理担当者がおこないダブルチェックを外部に委託するなど、一部分をアウトソーシングするやり方もあるでしょう。
税理士に顧問契約を依頼して、大きな取引をチェックしてもらうことも有効な手段です。経理担当以外のチェックが入れば、一人経理での不正を防ぐ対策になります。
ただし、アウトソーシングには経理業務のノウハウが残らないため自計化しにくい、委託コストが必要といったデメリットもあるため、慎重に検討しましょう。
「1人経理」の根本的な問題は、業務が属人化しやすいという点です。他部門の社員がダブルチェックをおこなっても、担当者以外には不正の有無すら判断できないでしょう。
経営者が経理知識を得ることは不正防止に有効ですが、時間的な余裕がない、すぐに反映されないという課題もあります。
その場合は、経理業務を「見える化」しましょう。業務フローを見直し仕組みそのものを改善することで、不正の機会を潰します。「見える化」には、業務フローを明確にするシステム導入が有効です。
ここからは、前項の対策5.経理業務の「見える化」で紹介したクラウド会計ソフト、経費精算システムの導入が、経理の不正防止に有効になる理由を説明します。
クラウド会計ソフトは、IDとパスワードさえあればどの端末からでも確認できる点が大きなメリットです。「経営者がいつでも会計帳簿を確認できる」という環境そのもの内部牽制となります。
帳簿の改ざんは手入力だからこそできることです。
銀行取引内容を自動的に帳簿に反映するため、改ざんの余地がありません。
また、不正な引き出しや取引口座を装った私的口座への振り込みなどをおこなっていた場合は、その取引も帳簿に反映されるため、発見しやすくなります。
店舗などのレジと帳簿を連携することで、売上金データを自動的に反映させることが可能です。
売上金操作など、経理はもちろん店舗での不正も防ぐ効果が期待できます。
クラウド会計ソフトと連携させるためにはインターネットバンキングの利用が必須です。
インターネットバンキングは、取引データ確認も振込作業をおこなう時間や場所を問いません。
不正防止効果がありながら、経営者にとっても有益な武器となるでしょう。
経費精算システムは、移動手段・区間を入力すると最安値が自動計算されるようになっており、予め設定した定期券の区間を立替経費請求から除外するものもあります。
また、Suicaなど交通系ICカードの履歴を読み取り、実費のみを精算することも可能です。
経費精算にまつわる不正の中でも多い交通費水増し請求の防止につながるでしょう。
立替経費は、必ず法人名義のクレジットカードを利用するルールを徹底し、そのカードを経費精算システムと連携させれば自動的に明細を読み込むことができます。架空請求や私用の経費計上防止に効果的です。
交通費と経費精算をすべてシステム化すれば、小口現金を廃止できます。小口現金の管理の手間も不正もなくせるというわけです。
経理の不正が起こる理由と効果的な対策について解説しました。
特に、「1人経理」が多い中小企業には、人材の採用・教育負担のかからないアウトソーシングやシステム化がおすすめです。
とはいえ、アウトソーシングには委託費用が、システム化にも導入費用や運用コストがかかります。経理不正リスクをどうにかしたいと思っていても、コスト増を考えると躊躇する中小企業もあるでしょう。
しかし、システム導入は、不正防止だけでなく社内全体の業務効率化にもつながります。
経理業務に不正がおこると資金的な損失ばかりか対外的な信用を損なうリスクもあり、大変に危険です。
特にリスクの高い1人経理の中小企業では、何かしらの対策が望まれます。その方法のひとつとして、アウトソーシングやシステム導入も検討してみてはいかがでしょうか。
私たち横浜・町田経理アウトソーシングオフィスは税理士法人YMG林会計のグループ会社であり、税務/経理の専門家である税理士とグループ提携しています。
経理担当者が不正を起こさない・起こした場合にすぐに気が付ける体制をつくるためのサポートも用意していますので疑問点・ご相談がございましたらお気軽にご連絡ください。
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